覆面風

2007年1月4日 日常
亡くなった母へ
お盆と正月に一方的に届いていた葉書が止まった。
かれこれ30年続いた。
印刷の余白に自筆で「元気ですか」とだけ、書いてあるのに
引っ越しをしても一年に2通届くその5文字は
愛情深く見える一枚の紙切れだった。

その人はある芸能人の名前に酷似した変わった苗字で
紅白で毎年見せ場を務める
流行のない大物スターの家族だということを
小学校のときに知った。今年も出演していた。
家族公認で真面目に付き合っていたのに
突然、母から別れてしまい父と結婚したらしかった。

今年も、東京で電車を乗り換えながら叔母からそんな話が飛び出した。
『おばさま、それが上手くいったなら、この世にわたしは生まれなかったのよ。』
『そうね、そうだわね。くーちゃんもね。』と、息子の頭を撫でて笑った。

一方的な手紙は普通、本人にも家族にも不愉快なものだと思う。
いろいろな年賀状を手に取りながら、なぜ、彼の葉書はそうじゃなかったのか考えた。

じゅうぶんな思慮が伺えた。
ただ、母がそこにいるのか生きているのか知りたそうだった。
葉書を出さずにはいられない、また葉書が母を励ます確信に満ちていた。
そういうひとだったんだと思う。

彼の教え子がわたしの後輩で友人になったこともあり、会ってみたい気もする。
だけど、沈黙を守り続けた母の一線を
娘が勝手に越えてしまうことは天国の母が嫌がるような気がして来る。
いつものとおり人に委ねる様子で「行って」とも聞こえる。

運に身を任せておこう。

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