病院で明け方、「あぁー、助けてぇー!」と
母が大きな声で叫んだので看護婦を慌てて呼んだ、と
隣のベッドに眠っている老女が小さな目を
パチパチさせて、わたしに囁いた。

me「あらら、叫んじゃったの?また雪の夢?」
mum「あなたと待ち合わせしたのに、はぐれてひとりぼっちになっちゃたの。
吹雪で何度も転んで怖かった、、、。」と、照れた。

病院では二度目らしかった。
一度目は大雪の中、点滴を引きずって街中ひとり転びながら歩いていた。
歩けど歩けど同じ小路が続き、家に辿りつけず助けを呼んだらしい。

55歳を過ぎたあたりから頻繁に始まったこの「叫ぶ声」は
ダブルベッドに一緒に眠る父は勿論、家族はみな知っている。
がんばり屋なのに体力がなく、虚弱体質の母が加齢と共に叫び出した。
九州で生まれ東京で育ち、銀座を闊歩するOLだった母が「嫁」として
初めて東北に足を踏み入れたのは、わたしが生まれる臨月の真冬だった。
閉ざされた雪国。地味な生活に乗る「重い雪」に、彼女は唖然とした。
また、慣れない雪の上を上手く歩けず大きなお腹で何度も転んだ。

雪が大嫌いな母。
夢で、雪に捕らえられて恐怖する母。
可能な限り「無心」で日常に向かいたいな、とわたしは思う。
ひとは嫌いなものに、嫌うものに
本当は、すっかり心を捉えられていつも生きている。
ひょっとしたら、愛することより執着心が強く高いエネルギーを使いながら。
それでも、しっかり抱えて生きていくんだろう、と思った。

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