いまは、誰も住んでいなかった
おじいちゃんが建てた家が全焼した。
まっ黒に焼けた屋根が地面に落ち、跡形もなかった。
跡継ぎをした次男のおじちゃんが
ずっと工場として使っていた。
火元ははっきりしないが、
ストーブを焚いていた場所だろう、という話だった。

おじいちゃんは幼少時淋しく育ち、終戦後捕虜としてモスクワに抑留されていた。
毎日毎晩日本を思い、一刻も早く帰り日本の食事が食べたかった、という。
帰国後、祖母と結婚し幸せな家庭を作ろうと夢を見て事業を始めた。
そして、家を建てた。家族が増えるたび増築も改築もした。
亡くなる最後まで、一代飛び越して「跡継ぎ」とわたしを呼んだ。
しかし、二代目はひとりとして上手く育たたず
彼が生きた74年、ひとつの「形」だった家は一晩で火の粉となって消えた。

たとえば、この田舎にはひとつ屋根の下「三世代四世代」同居が現存する。
そのひとつ屋根の下に、それぞれどんな思いがどう流れているだろう。
なぜ、長男だったわたしの父のように家を飛び出さないのだろう。
マイルドにスムーズにいくように心がけ、
上手く生きるために深刻な喧嘩は避けているんじゃないだろうか。

「おもえのせいでお母さんが癌になったじゃないか。」
と、父がわたしを責め荒れる。

その度に息子を育てながら、この血が長く流れ長く生きるコツを思う。

手綱は短すぎても、長すぎてもいけない。
お互いが引いて切れるような荒い愛情でもいけないんだな、と。

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