恋の種

2004年5月26日 恋愛
 いま携帯電話を切ったとき、初めて彼はフランス語で「ジュ・テーム。」と、わたしに言った。南フランスの高速からだった。
 
 時差が夏時間で7時間、あっちは午後三時だ。お天気は曇りのち、すごい雷が走ってるという。お得意様の玄関先まで切らない、と言い、取引先の方が出てくるギリギリまで話している。

 はぁ〜、トレビアン!さすがだ。
 ふぅ〜、熱い溜息がわたしの胸から漏れる。

 そう、パリ旅行中は信号が変わって雑踏に取り残される若いふたり、「かわいいキスシーン」を何度かみかけた。青が赤に変わろうと、何度信号が変わっても愛を確認し合う二人には関係がなかった。それを、思い出す。

 彼はわたしを思って朝方まで眠れない、と言う。一日中考えている、と。一線で働く43歳の博士は、まるで15歳の男の子みたいに熱い思いを話し続ける。忙しい仕事が身体に堪えてくるので、ゆうべはとうとう睡眠薬を飲んだんだって。
 
 うわぁぁーーー、小さな声で言う。
 しぃぃぃーーー、絶対内緒だよ。
 あのね、実はさ、今日はね、
 胸の奥が騒ぎ立ててるよぅ。
 これはさ、、、う!
 ひょっとしてね、、、あ!
 恋の新芽かも。

 お久しぶりです。
 大変お待ちいたしておりました。
 
 ところで、フランスの携帯から日本のDocomoに五時間かけたら、一体いくらになるんだろう。考えると、考えれば、考えられない。

 「まぁ、おっかないわ。」叫び声に振り返ると、財布が小刻みに震えて恐ろしげな顔。

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